守人たちが主に歌っている作中歌。こちらについてお話ししたいと思います。
スコットランドの古いバラッド(チャイルド・バラッド)「The Elfin Knight(読み方:エルフィンナイト/日本語訳:妖精の騎士)」と、イギリスの伝統的なバラッド「Scarborough Fair(読み方:スカボローフェア/日本語訳:スカボローの市)」から着想を得ました。
余談になりますが、「The Elfin Knight」関連を調べていると「イザベルと妖精の騎士」も出てくるんですね。同じ曲なのにタイトルが違うのも多くあるので勘違いしそうですが、「妖精の騎士」と「イザベルと妖精の騎士」は別物です。
歌詞が違いますからね。「妖精の騎士(Child 2A)」は丘の上で笛を吹いている騎士に、未婚の女性が『角笛をこの胸に、あの騎士をこの両腕に抱きしめたい』とつぶやいているところから始まります。
歌詞を見ていくと女性は、“未婚であることに、焦燥をかかえている”のが見えてくるんですね。そして騎士は既婚。二人は難問を掛け合って、おたがいにひとときの浮気心を回避する詩になっています。
「イザベルと妖精の騎士(Child 4A)」はイザベルが『聞こえてくるあの角笛を手に入れて、あの妖精の騎士を私の胸に眠らせたい』というところから始まります。たちまち妖精の騎士が窓辺にあらわれ、『不思議なことがあるものです。あなたが私を呼ぶと、角笛が吹けません』と騎士はイザベルを森に誘います。
しかしついたとたんに、『馬を下りろ、ここでしんでもらう。お前は八番目に殺されるのだ』と態度を急変させます。イザベルは穏やかに対応して、『しばらくわたしの膝を枕にお休みなさい』と騎士の髪をなでました。
だんだんと気持ちよくなっていった騎士は躰を寄せていき、イザベルの呪文にぐっすり眠ってしまいました。その隙に騎士を縛り上げて、短剣で刺し殺し『もしもここで七人の王の娘を殺したのならば、皆さんの夫としてどうぞごゆっくり』と締めくくられています。
はじまりは似ていても、ぜんぜん違うのがおわかりいただけたのではないでしょうか。こちらの「イザベルと妖精の騎士」。「the outlandish knight」と検索しても、出てきます。さっきも言ったとおり、さまざまな呼び方がございますので。
「スカボローフェア」でのおすすめは、『Vita Nova版』ですね。イザベルと妖精の騎士もとい「the outlandish knight」でおすすめなのは、『Bellowhead版』です。本作執筆中に、よく聞いてました。ぜひ、聞いてみてください。
作中歌に戻りますね。第三部「第四章 取り替え子」 でギルが歌っているのは、W・B・イエイツ編『ケルト妖精物語』の中に出てくるものになります。眠れないセシリーに聞かせている物語も、同書の中にございます。「第九章 王をたずねるために」に出てくるものも、同じ本からになります。よければ、読んでみてください。
「第二十八章 幌馬車のかしこい女」でマリアが歌っている『東の国から騎士が馬でやってきました 歌うたえキャザーの土手のうるわしのエニシダ 騎士は行くさきざきで求愛しました 若い娘はすぐだまされる』は、Child 1C『Riddles Wisely Expounded』になります。
騎士は若い娘を見くびっているので「すぐだまされる」なんて歌っておりますが、 娘の方が賢かったというオチです。
作中で出てきた歌は、こんなものでしょうか。抜かしている部分があれば、教えていただけると幸いに存じます。それではまた思い出したら、本作関連の情報を出していきたいと思います。知りたいことを見つけましたら、メールフォームからでもどうぞ。教えてくださいませ。